アントニオ・ガウディの建築金物展について
会場= 東京新橋 堀商店ショールーム
会期=1990年11月19日(月)~30日(金)
HORIが創業満100年を迎えるに当たって何か区切りを付ける記念にと考えたことは、当時バルセロナでのオリンピックの開催を2年後に控え、注目を集めつつあったカタロニア出身の異色建築家ガウディの建築金物に焦点を当てた展覧会の開催であった。
ガウディは金工職人を父に持つ建築家であり、多くの金属作品を遺した。それらの建築金物を中心に紹介すると一口に言っても、その観点から借用出来る実物や、写真などは適切なものは直ちにみつからなかった。
そこで金物については当社の技術を活かし現地で使用されている実物の精密実測(小さな物はシリコンで型をとった)により新たな型を起こし、何点かのレプリカの製作を行った。この建築金物の展示を中心に置き、それらが実際に使用されている環境などを紹介する写真も併せて展示した。写真については、長年ガウディの建築作品などを撮り続けてきた写真家の赤地経夫氏にお願いして新たに撮影して頂くことになった。
この展覧会の企画にあたり、当時、赤地経夫氏から次のような文章を寄せて頂いた。
●アントニオ・ガウディ(1852~1926)は、スペイン・カタロニアを代表する作家・建築家です。18世紀後半よ
り、19世紀初めにかけて興ったスペイン・カタロニアの文化・経済上のカタロニア・ルネッサンスを代表するだけでなく、
既に知られるように、アール・ヌーボーに始まる近代建築・デザイン運動のなかで、最も大胆でダイナミックな造形を遺し
た建築家・デザイナーといえましょう。
「 建築金物」という視点からみても、この近代建築が誕生していく19世紀末から20世紀にかけての転換期に於ては、
産業革命による新しい金属生産技術と、旧来の職人的伝統技術とが重なり合って、豊かな造形を生み出しています。数々の
注目すべき建築家・デザイナーがいますが、特にA・ガウディは、父親が銅職人であったこともあってか、実に豊かで変化
と造化の妙にみちた建築金物の仕事を数多く遺しています。その素材に対する理解は、天性の彫刻家をかんじさせます。金
物にみられる機能への対応は、エンジニアとしての発意に満ちています。豊かな造形のユーモアがあります。
その濃密で、豊饒、超未来性さえも感じさせる「ガウディの建築金物」という細部に執着し焦点をあてることによって、
ガウディ建築の世界を改めてみなおしてみる、それがこの企画の意図のひとつです。
いま、ポスト・モダンの風潮のなかで、1992年のバルセロナ・オリンピックの契機もあって、カタロニア文化におけ
るガウディ建築の世界は、改めて注目をあびつつありますが、問題は、ガウディの仕事をどのような視点から把(とら)え
るか、このことです。大きな建築全体からは、小さなデテールである「建築金物」に立脚して、ガウディの造形をみる。 そ
のことは、興味深い視野を拓くことになるのではないかと思われます。
1990.2.赤地経夫
寄贈したレプリカ
現在も使われている建物の中にあり、日常使用されている扉などに取り付けられている金物の実測、写真撮影などを行うに当たっては、その建物の現在の所有者の許可と協力を得なければ実現は不可能だった。また実測や撮影には、その目的や発表の仕方などについても理解して頂く必要があった。そこで先ず初めにガウディ作品の研究者として著名なバセゴダ教授に理解して頂き、複数の建物所有者などにも口添えをお願いすることになった。
なお現地での、実測・撮影にあたっては建物の各所有者と覚え書きを交わし、また展 覧会終了後には、製作したレプリカの写真と会場風景の写真を添えバセゴダ教授と関係者に礼状を送り、製作したレプリカの一部をガウディ研究所ミュージアム
に寄贈した。今も現地では見ることが出来ると思う